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第087-1話 代替品の選択

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-04-30 11:30:30

大通りの路上。

 田口兄が車でやってきた。一人のようだ。

「よお……」

「どうも、迷惑掛けてすいません……」

 ディミトリは憮然とした表情で挨拶をした。

 田口兄は愛想笑いを浮かべながら、自分の問題を解決してくれたディミトリに感謝を口にしていた。

「……」

 ディミトリは田口兄の挨拶を無視して車に乗り込んでいった。

「俺の家に帰る前に寄り道してくれ」

「はい」

 田口兄は素直に返事していた。年下にアレコレ指図されるのは気に入らないが、相手がディミトリでは聞かない訳にはいかない。

 何より怒らせて得を得る相手では無いのを知っているからだ。

「何処に向かえば良いですか?」

「これから言う住所に行ってくれ……」

 そこはチャイカたちが使っていた産業廃棄物処分場だ。

 確認はしてないがそこにジャンの所からかっぱらったヘリが或るはず。その様子を確認したかったのだ。

 処分場に向かう間も無言で考え事をしていた。田口兄はアレコレと他愛もない話をしているがディミトリに無視されていた。

 やがて、目的の場所に到着する。山間にある場所なので人気など無い。道路脇に唐突に塀が有るだけなので街灯も何も無かった。

 産業廃棄物処分場の入り口には南京錠が取り付けられている。ディミトリは中の様子を伺うが人の気配は無いようだった。

「なあ…… ワイヤーカッターって積んである?」

 きっと泥棒の道具として、車に積んでいる可能性が高いと考えていた。

「ありますよ。 コイツを壊すんですか?」

「やってくれ」

 田口兄はディミトリに初めてお願いされて、喜んでワイヤーカッターで南京錠を壊してくれた。

 後で違う奴に付け替えてしまえば多分大丈夫と考えていた。

 中に入るとヘリコプターは直ぐに分かった。ヘリコプターは処分場の中程にある広場のようになった真ん中に鎮

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